ドイツ、オーストリアの音楽大学では入試の結果発表と同時に指導教官が受け持つ生徒を指名するので、予め、指導を受けたい先生の了解を得た上で、願書に就きたい先生の名前を書いて出願します。但し、出願時に希望しても先生が抱えられる生徒数の枠(プラッツ)は決まっていて、その枠に空きがなければ、試験に合格してもその先生の指名は受けられません。したがって出願前に先生にプラッツの空きがあるかどうかを確認することはとても大切です。また、先生のプラッツに空きがあっても別の受験者の方が優先順位が高くて指名から外れることもあり、その場合は別の先生に就くことになりますので、できるだけ受験する大学の教授についての情報を得ておいた方が安心です。ドイツではフォアシュピーレンという事前に先生のレッスンを受けて、先生との相性やプラッツの空きなどを直接確認することが慣習になっていますので、ある程度先生を絞り込んだ上でフォアシュピーレンを受けて、適性や入学見込みについて確認されることをお勧めしています。
私はミュンヘン音大、ドレスデン音大、フライブルク音大、ビュルツブルク音大、モーツァルテウム音大等の教授のフォアシュピーレンやマスタークラスを受けてきておりますので、漸次、各大学の先生をご紹介していきたいと思っています。
ザルツブルク・モーツァルテウム音楽大学
- アンドレアス・グロートホイゼン 教授
Prof. Andreas Groethuysen
ピアノ科の主任教授。日本人の生徒も多数受け持っています。ミュンヘン国際音楽コンクール(ARD)のピアノ・デュオ部門の審査員長を数回務めるなど、ピアノ・デュオの第一人者として知られていて、大学の必修科目になっている室内楽でピアノ・デュオを選択した私も大変お世話になりました。
- パーヴェル・ギリロフ 教授
Prof. Pavel Gililov
モーツァルテウムといえばこの方その①。1950年旧ソビエト連邦生まれですがドイツに市民権を得ているようです。若くしてカバレフスキーに才能を見出されたというピアノ界の伝説の1人で、指導者としての名声が高く、第18回ショパン国際ピアノコンクールで2位に入賞したアレクサンダー・ガジェヴや、第7回仙台国際音楽コンクールで優勝したチェ・ヒョンロクなど、大きな国際コンクールの受賞者には必ずと言っていいほどギリロフ先生の門下生がいるような印象があります。70歳を超えた今も意欲的に後進を指導しており、世界中からトップクラスの若手ピアニストが指導を求めに集まって来ます。レッスンはドイツ語、英語、ロシア語になるでしょう。日本人の生徒で門下に入れた人も何人かいましたが、今は尼子 裕貴さんただ1人です。
- ジャック・ルヴィエ 教授
Prof. Jacques Rouvier
モーツァルテウムといえばこの方その②。1947年生まれ。ご自身も高名なフランス人ピアニストですが、指導者としてもダヴィッド・フレイやエレーヌ・グリモー、アルカディ・ヴォロドスなど才能あふれるピアニストを多数輩出されてます。近年は日本人の生徒が多く、第65回ジュネーブ国際音楽コンクールで優勝した萩原 麻未さんもルヴィエ先生の生徒でした。そのこともあってか、彼のクラスには途切れることなく日本人が2~3人入ってきており、私がモーツァルテウム在学中に親しくした日本人の友達もルヴィエ先生門下の方が多かったです。ドイツ語が嫌いでレッスンは英語かフランス語のようです。
- ピエトロ・デ・マリア 教授
Prof. Pietro De Maria
デ・マリア先生は1967年生まれのイタリア人。私のモーツァルテウム在学中の指導教官です。知名度では前の二人に劣りますが、コンサートツアーで世界中を回っており、世界的にその実力を認められている現役のピアニストです。バッハからリゲティまでレパートリーが豊富ですが、特にショパンに定評があり、ショパンの作品を全曲録音されています。以前、私のレッスン中にザルツブルクに訪れていたピアニストの内田光子さんが突然デ・マリア先生に会いにアポなしでやって来たこともありました。私はミュンヘン音大在学時にデ・マリア先生がモーツァルテウムの教授に就任されたのを知って、ヴェニスで開かれたマスタークラスを受けたのが縁で、モーツァルテウムでの修士課程以降の指導教官になっていただきました。デ・マリア先生にとって日本人の生徒は私が初めてで、その後も何人かの日本人が受験されていますが、私の在学中には新たにデ・マリア先生の門下に入った日本人生徒はおりません。現役ピアニストとしての活動が多く、持っているプラッツが他の教授の半分しかないので生徒数が少ないですが、もっと日本人に知られて良い先生だと思います。語学も堪能で、レッスンはイタリア語は当然ですが、英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語とマルチに対応されているようです。